格好いい敗者

松本大洋さんの作品を語る上で、欠かせないのが、「敗者の側に目線を向ける」お話を、本編が横道に逸れることなく差し入れる上手さです。
松本マンガの敗者と言えば、「ピンポン」に出てくる「アクマ」や「チャイナ」辺りが魅力的な登場人物ですが、彼らは本編においても、主人公と大きく関わるようなストーリー上でも重要な存在です。(表紙になるくらいの。)
ここで取り上げたいのは「ピンポン」でスマイルと対戦する「大鵬高校の3年生の江上」(2巻)とか、「竹光侍」で瀬能と剣を交えた「磯崎弥丙太」(1巻)のような一話しか登場しない超脇役たちです。
江上が登場する回は、なんとその江上の視点(心の声)でストーリーが展開します。高校最後の大会、今年こそ全国をと意気込む江上を、1年生の無名のスマイルが滅多打ち。5分でゲームセット。トーナメントの初戦で敢え無く負けた江上が心でつぶやく「そうだ、海へ行こう。」
弥丙太も同様に瀬能に敗れて、自身の意思で道場を出て行くことになります。2ページ後日談という形で、その後の弥丙太の人生が描かれます。
両者とも、主人公の強さを読者に伝えるために登場しただけの脇役ですが、とても魅力的です。特に弥丙太は正義感溢れる人格者です。
どこのインタビューだったか忘れましたが、大洋さん自身も、学生時代サッカーで挫折を経験しているみたいで、敗者の側のエピソードも大事に描きたい気持ちがあるのかもしれないです。敗者を魅力的に格好よく描くのが上手だなと思います。

ピンポン(2) (ビッグコミックス)

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竹光侍 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

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