「無敵の不敗者なんて薄っぺらいものさ。」

ファントム・パワー : スーパー・ファーリー・アニマルズ

「ファントムパワー」。このアルバムのリリースが2003年なのでもう11年前とは…。このアルバムの魅力は語りつくせないですが、10年経っても色あせないと感じる事が、僕がファーリーズをいつまでも応援したい、追っかけたいと思う理由です。
語りつくせないで片付けては話にならないので、思いつく限りを書き出してみたいと思います。

日本盤のライナーを担当した(当時音楽雑誌SNOOZERの編集長タナソウこと、)田中宗一郎はさんライナーで何回も「ハッピーサッドソング」というワードを使っています。「ファントムパワー」を一番端的に表すワードだと思います。「幸せと哀しみの歌」。この正反対の感情と、さらにもっと複雑な感情が一曲に詰め込まれています。(ああややこしい。)

作品が作られた時代背景、ファーリーズの置かれていた環境を書くと、当時は前作「リングスアラウンドザワールド」(こっちを名作と推す声のが多い。)のワールドツアーで長い事アメリカを回っていました。そして時代は「9,11」のニューヨークテロ事件。その報復としてのアフガニスタン紛争、イラク戦争。「ファントムパワー」の歌詞にもその影響が色濃いです。

サウンドはそれまでのロックテイストはやや控えめで、全米ツアーの影響からかカントリーミュージックのテイストが見られます。(テロ、報復といった重いテーマをカントリーテイストで…。これが「ファントムパワー」の魅力であり、同時にややこしさです。)そしてメンバー全員による4重、5重に重なる緻密なハーモニーの美しさ(BB5みたいだ!)は10年経ってもいまだに僕を虜にします。

世の中は「正義と悪」の2極で語れるほど単純ではない事をファーリーズはよく判っています。(それを理解できない国家指導者がどれだけ多い事か。)もちろんファーリーズは、テロ活動やテロ組織を容認しているわけではありません。ただ彼らもイギリスはウェールズという極めてマイノリティな特殊な土地で生まれ育ったものとして、彼らは「虐げられる弱者」の気持ちを理解しています。

アルバムの核となる曲の一つ、13「THE UNDEFEATED」のサウンドは、ガチャガチャというブレイクビーツから、一転勇壮なホーンによるウキウキするノーザンソウル。それが突如レゲエのリズムにとファーリーズにしかやれない多国籍雑色的ポップス。政治的に緊張関係にあるアメリカと南米キューバの音楽をミックスすることで、平和への願いを込めているともとれます。(こういった音楽的からくりはこのアルバムには無限にあります。)

歌詞の頭は「ああ、また僕、僕の負け。勝者は君。」で、歌の締めは「無敵の不敗者なんて薄っぺらいものさ。」

負け犬の遠吠えともとれるかもしれないけど、これほど的確に(あの時期の、)あの大国を皮肉った歌詞はないと思います。明るい曲調も痛快。締めの歌詞は僕の座右の銘にしたいくらい。おまけにサビで合いの手の叫び「NO POLLUTION! SOLUTION!(腐敗なんかいらない!解決を!)」は感動的。

アニメーションによるミュージッククリップ集もあります。
ファントムパワー [DVD] : スーパー・ファーリー・アニマルズ